
※ネタバレあり【感想】アカデミー賞4部門ノミネート『ブゴニア』を観て
序盤、『ブゴニア』は意外なくらい状況説明が明快です。陰謀論に取り憑かれた青年(ジェシー・プレモンス)が、「あの女は人間ではない」と確信し、巨大企業の“顔”として君臨する女性(エマ・ストーン)を拉致監禁。世界を救うための告発であり、同時に病床の母を救いたいという切実さでもある。薄暗い密室の異常さと、外の社会が何事もない顔で回り続ける平熱。その温度差が、じわじわ背中に貼りついてきます。 ヨルゴス・ランディモス監督といえば「不条理」が常套句ですが、本作はその不条理を“物語のルール”として整理している印象。奇妙な行動や突飛な言葉が飛び交っても、登場人物の欲望と理屈が一応つながっている。だから観客は置いていかれず、「次はどんな一線を越えるのか」と前のめりで追えてしまう。この見やすさが、私にはむしろ新鮮で、監督作の中でも一番好きかもしれないと思わせました。 最初のショックは、エマ・ストーンがバリカンで髪を刈られる場面。驚きで声が出る、というより、頭皮が冷える感じ。美しさや役割といった“外側の記号”を剥がされ、存在の輪郭だけが残る。そんな儀式に見えてきます。彼女の演技もまた判別不能で、人間なのか宇宙人なのか最後まで決めきれない。視線の焦点、間の取り方、声の温度が絶妙にズレていて、理解できそうでできない不安が快感に変わる瞬間があるんです。 一方のプレモンスが巧いのは、彼を単なる危険人物にしないところ。母を救いたい優しさが芯にあり、その優しさが現実認識をねじ曲げていく。正義と愛情が、こんな形で暴力に接続されるのかと苦くなるのに、感情移入してしまうのが悔しい。 そしてラスト、人間がバタバタと死んでいく圧巻の連鎖。ここまで積み上げた違和感が一気に現実へ転落し、冷たい手触りに変わります。観終わって残るのは、理解したいのに理解しきれない、でも見届けてしまったという感覚。アカデミー賞4部門ノミネートも納得の、後味まで設計された作品でした。 ----------------- 下の作品はヨルゴス・ランディモス監督作です
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- 作成日時:
- 2026/03/13 16:59
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