
“たられば”の果てに今を肯定する──『エブエブ』が泣ける理由
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、アカデミー賞を総なめにした話題作だったけれど、日本では意外と「そこまでハマらなかった」という声も見かけた。 でも自分は大ハマり。 むちゃくちゃおもしろかった。 観ている間ずっと、「次は何を見せてくるんだ?」というワクワクが止まらない。予想できない展開、アイデアの洪水、そして映像表現の自由さ。クリエイティブという言葉そのものを映画にしたような作品だった。 ただ、不評だった理由も少しわかる気がする。 それは“マルチバース”という言葉だ。 公開当時はちょうどマルチバースものが大量に作られていた時期で、どうしても「別世界がいっぱい出てくる映画」という印象で見られてしまった。 でも、この映画の本質はそこじゃない。 今作が描いているのは、“もしもあの時違う選択をしていたら”という「たられば」の物語だ。 夫とアメリカへ来なかった人生。 カンフーマスターになった人生。 映画スターとして成功した人生。 無数の可能性が存在している。 しかし、それらはあくまで可能性であって現実ではない。 だからこそ、この映画は最終的に「今をどう生きるか」という話へ着地する。 ここが本当に素晴らしい。 マルチバースを使った作品は数多くあるけれど、ここまで“現実を肯定するため”にマルチバースを使った作品は珍しいと思う。 そして何より、あの石のシーン。 映画館で観たとき、本当に驚いた。 あれだけ情報量の多い映画が、突然ほぼ無音になる。 動かない石。 長い沈黙。 なのに、しっかり感情が伝わってくる。 映画史に残る名シーンと言っても大げさではないと思う。 あの場面で、この映画が単なる奇抜な作品ではないことを確信した。 また、自分が特に響いたのは夫婦の物語だった。 世界を救うとか、マルチバースとか、そんな大きな話をしているのに、根底にあるのは夫婦の話なのだ。 主人公はずっと「もっと良い人生があったのではないか」と考えている。 でも夫もまた人生を生きている。 夫にも苦労があり、迷いがあり、それでも優しくあろうとしている。 その視点が入ることで、物語が一気に人間的になる。 だから終盤は本当に泣けた。 また、マルチバース移動の条件が「変なことをする」というのも最高に笑える。 あのバカバカしさと感動が同居しているのが、この映画の凄いところだ。 普通なら成立しない。 でも成立している。 しかも抜群におもしろい。 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、奇抜な映画に見えて、その実ものすごく真っ当な人生賛歌だと思う。 「あの時こうしていたら」という誰もが抱える後悔や想像を受け止めた上で、それでも今を肯定してくれる。 笑わせて、驚かせて、最後には泣かせてくる。 こんな映画、なかなかない。 観終わった後、「もう一回観たい」と心から思った。何度でも味わいたい、近年屈指の傑作である。
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- 作成日時:
- 2026/06/01 22:38
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
アカデミー賞も総ナメの話題作、でも日本公開するとそこまでハマっている人は少ない? いやいや自分は大ハマリ!むっちゃおもしろかった!想像できない展開、どんどん見せてくるクリエイティビティ、もうこれだけで夢中になっていた。不評な要因はマルチバースという言葉が紛らわしいことになったんじゃないかと思う。今作は「たられば」を題材に家族愛、夫婦愛を描いている。その「たられば」があるから最終的に現実が活きていくという締め方をする。もうこれが見事すぎてたまらない。あのとき夫とアメリカに行かなかったら…、カンフーマスターとなり女優として大成功したら…、しかし現実はそうじゃない。そうじゃないし「たられば」に逃げることはできない。石のシーン、あのときの沈黙には驚いた。ここは映画屈指の名シーンじゃないだろうか。そして度々見せてくる夫婦間の話。あれが響いたなぁ。夫だって生きているんだ。たられば世界のトリガーが「変なことする」という設定も笑えるが、そのどれもが楽しかった。いろいろアレコレ起きて最後は泣かしてくる。何回も見たいよこの映画!
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