
1972年の惨劇を描く2つの傑作『セプテンバー5』と『ミュンヘン』
1972年9月5日、ミュンヘンオリンピックの選手村で、パレスチナ武装組織「黒い九月」がイスラエル選手団を人質に取る事件が発生した。世界中に衝撃を与えたこの事件は、後に「ミュンヘンオリンピック事件(黒い九月事件)」として知られるようになる。 今回はこの事件を題材にした2作品、『セプテンバー5』と『ミュンヘン』を紹介したい。 『セプテンバー5』はオリンピック中継を担当していたアメリカのスポーツ中継班が、最前線でこの人質事件の報道に挑む様を描く。その無駄なくテーマを切り取ったシナリオによって、本作は第97回アカデミー賞・脚本賞にノミネート。事件の緊迫感とともに、放送のプロ達の仕事力を見せつけてくる実録ドラマだった。 そして、もう1本は2005年に公開された『ミュンヘン』である。 巨匠スティーブン・スピルバーグ作品のなかで屈指の問題作と評される『ミュンヘン』は、『セプテンバー5』が報道してきた人質事件の全容と、その後を描く。 まさに事件の内側と外側を両極端に描いた2作品であり、今もなお続くパレスチナ問題がいかに根深い歴史のうえに成り立っているのかが垣間見える骨太の映画だった。 ■おすすめしている作品 『セプテンバー5』 『ミュンヘン』 編集担当:Koji
たくさんの「いいね」ありがとう!
246
- 作成日時:
- 2025/04/30 12:32
セプテンバー5
- 制作年:
- 2024年

1972年9月5日、ミュンヘンオリンピックの選手村で、パレスチナ武装組織「黒い九月」がイスラエル選手団を人質に取る事件が発生する。 ニュース経験がないアメリカのスポーツ番組のクルーたちは、世界中が注目する事件を生中継することになるのだが――。 有能なプロデューサーや技術チームの傍らで、現地ドイツの通訳として番組に入っていた女性スタッフの活躍が素晴らしい。この凄惨な事件が起きた場所が、第2次世界大戦からたった27年後のドイツだったという現実を作品に落とし込んだことが、94分という短さでも見応えのある映画になった理由のように思う。
ミュンヘン
- 制作年:
- 2005年

ミュンヘン五輪で起きたイスラエル選手団襲撃事件の後、イスラエル諜報機関モサドは、報復作戦を実行する。元兵士アヴナー(エリック・バナ)はチームを率いて、事件に関与していた人物たちを追う。 だが、任務が進むにつれ、アヴナーの信念が揺らいでいく――。 報復作戦を進めるうえでの情報のやり取り、資金確保、武器や隠れ家の調達など、全てがすんなりと上手くいくわけではない……という時もあり、その不器用さが真実味を醸し出しているのも本作の秀逸なところ。 エンタメ感を極力排した暗殺シーンのリアルな演出と、ミュンヘンオリンピック人質事件の犯行と全容を生々しく見せつける映像は、鑑賞後なかなか忘れられないかもしれない。 最後にもう1つ、暗殺チームの面々のなかで、ドライバーのプロ・スティーブを演じているのが『007』のジェームズ・ボンド役に抜擢される直前のダニエル・クレイグだったということも、見どころとして付け加えておきたい。