
感覚が刺激され、想像力を解き放つ音楽朗読劇―豪華声優陣が魅せる体感型ステージ
朗読劇という枠に収まりきらないスケールで展開される、音楽朗読劇READING HIGH。その魅力は、圧巻のオーケストラ演奏と緻密に設計された舞台演出が融合し、観客の想像力を大きく揺さぶる点にある。言葉と音楽、そして光と影が重なり合うことで生まれる体験は、すでに完成された映像作品を観るのとは異なる、より能動的で豊かな没入感をもたらしてくれる。 さらに特筆すべきは、キャストを務めるのが諏訪部順一、津田健次郎など全員、確かな演技力をもつ実力派の有名声優陣であるということだ。彼らの熱演は観る者を物語の世界へと自然に引き込んでくれる。 今回は、そんな唯一無二の舞台芸術を追体験できる2作品――『Chevre Note~シェーヴルノート~(2021)』と『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』をご紹介する。静かに心を震わせる物語と、感覚を刺激する音楽の波に、身を委ねてみてはいかがだろうか。 編集担当:お試し係B
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- 作成日時:
- 2025/06/27 16:01
- 更新日時:
- 2025/06/27 16:02
音楽朗読劇READING HIGH「Chèvre Note~シェーヴルノート~(2021)」
- 制作年:
- 2021年

ジャンヌ・ダルクが活躍した百年戦争末期のフランスを舞台に繰り広げられる、濃厚なダークファンタジー作品。祈り、復讐、野望、悲願――登場人物たちそれぞれの強い想いが交錯する中、「自らの大切な記憶」と引き換えに悪魔と契約し、強大な魔法を手にする者が現れる。もしそんな存在が歴史の裏側にいたとしたら――そう思わずにはいられない、ぞくっとするような物語だ。 史実ではジャンヌ・ダルクが火刑に処されるという結末が待っていたように、物語全体にも悲劇の色は濃く漂っている。しかし、悲しみに沈むだけの作品ではない。悪魔との契約によって繰り出される魔法詠唱と、そのバトルシーンの圧倒的な迫力は、舞台演出と相まって息を呑むほどにかっこいい。しかもこの作品では、魔法詠唱の省略を許さないという設定が徹底されており、その“悪魔ルール”には思わずGJと言いたくなる。声優陣の魂のこもった詠唱は、一度聞いたら忘れられず、何度でも味わいたくなるほどだ。 特筆すべきは、“悪魔との対価”として差し出されるものが「魂」でも「命」でもなく、「忘れがたき記憶」である点である。記憶とは、その人自身を形作る核のようなもの。それをひとつひとつ奪われていくことの喪失感は、静かに心を締めつけてくる。また、“忘れがたき記憶”と判定されなかった記憶が、価値のないものとして扱われることにも、別の形の悲しみがにじむ。 終盤、激しさを極めるバトルと、その代償として支払われた記憶の重み。そして、その果てに手にしたもの。すべてが胸に迫り、気づけば涙が込み上げてきた。これはただの朗読劇ではない。感情の深いところを揺さぶられる、“声と音と光”の劇場体験である。
音楽朗読劇READING HIGH 「ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~」
- 制作年:
- 2020年

とにかくストーリーがめちゃくちゃ面白かった。舞台は17世紀、錬金術がまだ神の領域とされていた時代。天才と呼ばれた一人の錬金術師が、命を生み出す禁忌に挑み、ホムンクルス――人造人間の錬成に成功する。しかし、その成果は完璧ではなく、不完全な存在として誕生した彼らは、創造主である錬金術師から見捨てられ、放置されてしまう。 一方、教会は“神のみに許された生命錬成”に手を出したとして、このホムンクルスたちを異端として断罪。容赦なく抹殺すべく討伐部隊を送り込む。人間からも創造主からも拒絶されるホムンクルスたちは、それでも必死に生きようともがいていた。 特に印象的なのは、彼らホムンクルス同士の関係性だ。血は繋がっていなくとも、同じ錬金術師によって生み出された存在として、互いを「兄弟」と呼び合う姿はあまりに尊く、観る者の胸を打つ。視覚や味覚、触覚など、何かしらの機能が欠けている“不完全さ”は彼らの哀しみでありながら、そのまま人間の不完全さとも重なって見えてくる。「人間とは何か」という問いが静かに突きつけられ、境界線が曖昧になっていく感覚が心に残る。 演出も圧巻で、舞台上には炎が激しく上がり、バトルシーンの熱量がダイレクトに伝わってくる。そして何より驚かされるのが、声による表現の可能性である。ひとりで複数の役を演じているキャストは、声のトーンや間の使い方によってキャラクターをすっと切り替え、それぞれの存在をきちんと“感じさせて”くれる。さらに、同じキャラクターでも若い頃と年老いた姿とで声音のニュアンスをしっかり使い分けており、思い出話をしている場面なのか、いま現在の出来事なのか――その“時間の切れ目”まではっきり伝わってくる。まさに、「声で演じるとはこういうことなのだ」と突きつけられるような感覚だった。 さらに物語は終盤まで勢いを落とすことなく展開し、黒幕の正体が明かされたときには思わず息をのむ。最後の最後まで目が離せない、緻密に構築された良質なストーリーに、圧倒的な満足感を覚える一作である。