
和から洋へ、幻想の海を越えて――READING HIGHが誘う異世界朗読劇
音楽朗読劇READING HIGHの最大の魅力は、物語ごとにまったく異なる世界へと観客を誘う、ジャンルも時代も超越した“語り”の力にある。今回紹介する2作品も、その世界観の振れ幅に驚かされる。 ひとつは、呪術と魑魅魍魎が息づく“和”の世界を舞台に、若き陰陽師たちの宿命と戦いを描いた5周年記念公演『YOUNG WIZARDS~Story from 蘆屋道満大内鑑~』。 もうひとつは、ナポレオン戦争時代の “洋”の空気感と、波間にうごめく幽霊船と運命が交差する『El Galleon~エルガレオン~』。 テイストも装いもまったく異なる二作だが、いずれもREADING HIGHならではの“声”と“音楽”が織りなす没入感にあふれている。異なる時空を旅するような体験を、ぜひ味わってほしい。 編集担当:お試し係B
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- 作成日時:
- 2025/07/18 17:28
音楽朗読劇READING HIGH 5周年記念公演『YOUNG WIZARDS~Story from 蘆屋道満大内鑑~』
- 制作年:
- 2022年
平安時代の都を舞台に、鬼を討つ者たちの戦いと、それぞれの想いが交錯する濃密な物語となっている。軍人、僧侶、陰陽師たちが共に鬼に立ち向かう世界で、物語の中心にいるのは陰陽師の見習い・芦屋道満と安倍晴明。彼らは兄弟弟子でありながら、常識では測れぬ力を持つがゆえに周囲からは爪弾きにされていた。 鬼の正体は、人の心に宿る怒りや憎しみ。その恐ろしさが形となって現れるなか、さらに“鬼を喰らう”という謎の狐までが現れ、都は人と妖が入り乱れる大混乱に。次々と現れる鬼や狐といった怪(あやかし)たちによって、平安の都はまさに修羅場と化していく。そして、どうしても倒せないはずの狐に、なぜ清明だけが立ち向かえるのか――彼の出生にまつわる謎が、物語を大きく動かしていく。 物語の柱であるもう一人の存在――源頼光がまた、とにかくカッコイイ。圧倒的な強さと包容力を兼ね備え、時に優しく、時に厳しく、道満と清明を見守る姿はまさに理想の保護者像である。べらぼうに頼もしく、そこにいるだけで安心できる。 史実との結びつきにも注目したい。たとえば、道長の有名な和歌「この世をば~」が登場する場面。その一首が詠まれることになった背景があまりにユニークで、「そうくるか!」とテンションが上がった。歴史的モチーフを巧みに織り込みながらも、自由な物語として昇華させている点が実に楽しい。 そして最大の見どころのひとつが、道満と清明の関係性である。多くの物語で、道満は晴明のライバルとして敵対する役回りになりがちだが、本作の二人の関係はその次元を超えていた。道満の心には、確かに晴明との能力差に対する妬みもあったのだろう。しかし、長い修行の年月を共に過ごした日々は、そんな単純な感情で断ち切れるようなものではなかった。その積み重ねの重みを目の当たりにし、自然と涙がこぼれた。 今回もまた、陰陽師ならではの印や詠唱が舞台演出と融合し、息を呑むほどスタイリッシュ。そこに込められた想いや祈りが、演者の声と音楽によって胸に響く。 親子の情、忠義の誓い、幼馴染の絆――それぞれが抱く“強すぎる想い”は、やがて悲しみをも引き寄せる。怒りは鬼を呼び、人の心が生み出したものが人を襲うとするならば、人間は一体どんな力で戦えばいいのか。清明が最後に放ったその力は、もしかすると、誰かを大切に想うからこそ生まれる気持ちだったのかもしれない。 それは他のどんな術や力にも代えがたい、“人間らしさ”の結晶だった。
音楽朗読劇READING HIGH 「El Galleon〜エルガレオン〜」
- 制作年:
- 2020年
ナポレオン戦争下のイギリス海軍を舞台にした、幻想と人々の想いが交錯する壮大な物語。ネルソン提督率いる艦隊が帰還の途上で遭遇したのは、100年以上前に消息を絶ったはずの“幽霊船”だった。そして、その背後には不老不死を追い求めるジョージ王太子の執念が潜んでいた。 幽霊船から捕らえられたのは、かつての海賊であり、今や不老不死の肉体を持つキッドとダンビア。彼らはひとクセもふたクセもある人物で、口喧嘩をしながらも妙なコンビ感があり、状況のシリアスさに対してどこかコメディタッチな軽妙さを漂わせる。その飄々としたやり取りが、物語にユニークなテンポをもたらしていた。 人が死とどう向き合うか、そして残された者が何を背負うのか――本作が投げかける問いは重く、深い。心の中に残る傷は、じくじくと何年も痛み続け、後悔だけがいつまでも足元にまとわりついて前に進めなくなる。だからこそ、「死なないこと」ではなく、「どう生きるか」が問われてくる。 不老不死伝説は、昔の人々の死に対する不安の裏返しなのかもしれない。生への執着、あるいは恐れ――その想いが幻想となって語り継がれ、それが本作では“形”を持って現れる。そんな伝説を描きながらも、この物語はどこか現実と地続きで、人間の弱さも愛しさもそのまま詰まっているように感じた。 そんなシリアスな主題の中で、作品に温かみを与えているのが、人と人との関係性である。とくに、二組の父娘愛にはジーンときた。どちらの父も不器用で愛情表現はスマートとは言いがたいが、その不器用さの中にこそ、真っ直ぐな愛が感じられる。 その娘の一人であるフローチェは、無邪気で大胆。子どもらしいまっすぐさを持った彼女の行動が、物語の大きなターニングポイントとなる。彼女がいなければ、この物語はきっと、もっと重く、もっと哀しいものになっていたはずだ。 不老不死をめぐる物語というと、得てして重く湿った後味を残しがちだが、この作品は違った。ラストシーンを見終えたあと、胸に広がったのは、浄化されるような熱い希望と少しの切なさだった。









